1.ノヌ・ジュースについて:
ノヌ(又は「ノニ」とも呼ばれます)は、南太平洋の島々に自生するアカネ科の潅木で、その実、葉、根などが、古くから島人たちに「医者いらず」のような万能薬として利用されてきました。その完熟した実を、タンクなどの容器に密閉して3ヶ月発酵、熟成させて搾汁したものが、健康食品として、今や世界中で市販されているノヌ・ジュースです。
サモアのノヌ・ジュースの生産は、1998年に、地元のR. & L. Keil社と、日本のPI社の合弁で始まり、その後3社が参入しました。2003年10月までの1年間の総生産量(=ほぼ輸出量)は、約380トンと推定されます。うち320トンが日本向けで、更にそのうち300トンは、PI社により生産輸出されたものです。
同社によると、日本におけるノヌ人気は年々上昇傾向にあり、来年度の輸出高は、さらに30〜50%増が見込まれているということです。
2.マルチ商法の参入:
この商品に着目したのが“Lalelei Corporation Ltd(ラレレイ・コーポレーション・リミテッド)”なる「サモアの」(・・・・・・と称する実質日本人主導の)会社です。
そのウェッブサイトを見ると、「世界初!完全1本ワンナリープラン遂に登場」とか、「Planは最低2人紹介、メガマッチあり、最高タイトルは直紹介20人以上、且つ直の内10人以上が紹介10人以上」・・・・・・とか、この種の業界の専門用語がぞろぞろと出てきて、素人の私たちにはよく解りません。
そして、初回費用の18,900円を払ってこの会社の主催する組織の会員となり、更に新しい会員を紹介すれば、高額な手数料が支払われ、短期間のうちに大儲けできるそうです。「週末起業で新車が買える・・・・・・」、「副業でより豊かな生活を・・・・・・」などのキャッチフレーズがおどっています。
3.サモア国の「国策事業」・・・・・・?
その「入会案内」には、「サモア国の『国策事業』として、特産物の健康ジュースを扱っています」・・・・・・とあります。読者には、あたかもサモア国政府が、この会社の事業に、何か特別な支援をしているような印象を与えます。
しかし、私たちは首相はじめ、政府の関係各省に確認しましたが、そのような事実は全くありません。もっとも多くの発展途上国で制度化されている、輸出振興や外貨獲得事業の促進のための税制優遇などの一連の措置を「国策」というなら、全くの間違いとも言いきれません。しかし、それらは決してノヌ事業のためだけの特典ではなく、ましてや、外国人主導のマルチビジネスに適用されるはずがありません。
4.首相夫人が取締役 ・・・・・・?
この事業の主催者であるラレレイ社の日本語の「会社概要」には、取締役としてGillian Tuilaepa首相夫人のお名前が載っております。
このことにつき、首相御夫妻に直接問い合わせたところ、「あり得ない!」(首相)、「かつて親戚を通じて、そんな依頼があったような記憶はあるが断った・・・・・・名前を無断で使われた!」(夫人)、とそれぞれに御立腹でした。
念のため、当国法務省で、会社登記簿を閲覧したところ、“Lalelei Corporation Limited” なる会社は確かに存在しますが、ネット上の会社概要に掲載されている5名の役員のうち、Suzuki氏を含む2名以外は別人名義で、もちろん首相夫人のお名前は見当たりません。
5.La’auli酋長が国家元首の「養子」・・・・・・?
ラレレイ社の代表者「ラッウリ H. スズキ」氏は、国家元首マリエトア殿下の「養子」とありますが、この表現は正しくありません。
La'auli(「ラッウリ」ではなく、正しくは「ラッアウリ」と発音します)は、サモアの4つの「タマーアイガ(パラマウント。チーフ、又は大酋長)」のひとつ、マリエトア一族に属する酋長名ではありますが、スズキ氏の経歴書に記されているような「養子・プリンス等の意味」はありません。ことばを直訳すれば、“La’a”は「段を上がる」、“uli” は、暗闇または黒色の意・・・・・・これでは意味をなしません。要するに、「名前のための名前」です。多分、その酋長位を頂いたとき、まわりの人々が、社交辞令として、そのように説明したものでしょう。
因みにサモアの酋長というのは、村長とか族長というような立場ではなくて、いわば人格の一部のようなものです。そして、酋長名には、それぞれに特定の土地の「占有権」がつきます。さらに数年前に普通選挙法が施行されるまでは、国会議員の選挙権も被選挙権も、酋長のみに限られていました。そこで1962年の独立以降、選挙対策として、どんどんお手盛りの酋長さんが増えて、今では30才代の男子の半数、40才代では70%、
50才以上ではなんと90%が酋長です。
そして、外国人への酋長位は、しばしば「儀礼」として、又は「おみやげ」として与えられます。この場合は、もちろん土地に関する権利もないし、もとより国籍がないので、(前述の)選挙権もありません。又、最近では。女性の酋長も増えてきました。
尚、日本人にも過去に30人ほどの酋長さんがいます。中には二つの酋長名をいただいた人もいます。
6.ラッウリ氏の経歴について:
ウェッブサイトに発表されている「ラッウリ H. スズキ」代表の経歴には明白な間違いや、疑問点がいくつかあります。
- JICA(国際協力事業団)副総裁や、外務省の「協力を受け」、日本のODAプロジェクトを「推進した」……とありますが、果たして一民間人の同氏に、一体何何ができたのでしょうか? お仲間に、ムネオさんタイプの政治家でもいたのでしょうか?
- ’85年、「首相より『駐日外交官代表』の命を受け、日本の外務省に口頭で通知」とありますが、今も昔もこの国にそのような役職はなく、当時の「在日西サモア国名誉 総領事」は、故・渡辺武次郎氏(元三菱地所会長)だったと伺っております。
- ’89年に、こんどは「駐日通商代表」に任命された・・・・・・、とありますが、その後すぐに解任されたことには触れられておられません。
- ’89年の昭和天皇大喪の礼、及び、’90年の今上天皇即位の礼の際、来日されたマリエトア殿下御一行を全面的にお世話したのは、同上名誉総領事及び館員たる三菱地所社 員の皆さんだったはずです。
- ’98年の中華民国(台湾)との経済交流については、ツイラエパ首相は「あの話は、内容があやしいので行動を差し止めるよう警告したはず」・・・・・・と申されていました。
それにしても、発表しておられる経歴書によりますと、かくも長年にわたり、サモアとの密接な関係をもち続けてこられたはずの同氏ですが、当地では一部の人々を除いてほとんどのサモア人がその名前さえ知らず、私たち古参の在留邦人の中でも、同氏を直接知る者はほとんどいない・・・・・・という事実は、一体どう解釈すればよいのでしょう。
7.「オーガニック認定」について:
本来、サモアに限らず南太平洋の農業は、ほとんどが無肥料無農薬で、ましてサモアのノヌについては、ほぼ全量が野生のものなので、もともと「オーガニック」です。
又オーストラリアの“NASAA”は、当地に駐在エージェントがあり、申請すれば簡単に認定されるものです。日本の農産物における“JAS”認証のように厳しいものではなく、従って、それほど商品に付加価値を生むものではないでしょう。
8.価格について:
現在日本国内で市販されているノヌ(ノニ)は、50銘柄ほどあるそうですが、それらの平均小売価格は、1リットル当り\5,000〜\6,000といいます。ラレレイ社の「サモアナ・ノニ」は、「モニター価格」で\12,000/リットル+送料\1,000=\13,000/リットルなんと2倍以上です。他人様の商売に口出しするのは僭越ですが、このことを知ったサモアの人々に、「日本人は、我が国の産物をネタに暴利をむさぼっている」などという批判が生じないかと心配です。
9.「国際デビットキャッシュカード」について:
入会案内書には、会員になり、所定の申し込み金を支払えば、現地のANZ・サモア銀行から表題のカードが発行され、種々のサービスが受けられるとあります。
当国のANZ・サモア銀行には、表記の名称のカードはありませんが、これは多分、国内外のATMで使用できる“Access Card”の“Maestro”対応型を指すものと思われます。 この銀行カードは、私たち在留邦人も、ほとんどのメンバーが利用していますが、これは本来、同銀行に預金口座を開設して100タラ(約3,800円)以上を預金すれば、無料で発行されるものです。「申し込み金」という名目の、5万円とか3万円とか1.2万円というのは、一体何のために、どこへ行くのでしょう、他人ごとながら気がかりです。
それに、当国には、非居住者の銀行口座開設や外貨の入出金については、為替管理法や税法などとの関連で、一定の規制があります。そのあたりの調査と、入会者への説明は、十分になされているのでしょうか?
ラレレイ社の本件の「業務委託先」として、ネット上には、横浜の「ユニックス・インターナショナル」と、ハワイの「アリ・インターナショナル」という社名があげられていますが、同銀行の外国為替の担当者には、「そういう事業の話は聞いたこともないし、『ユニックス』とか『アリ』という名前の会社も初耳だ」と言っておりました。
終わりに:
以上、サモア、ノヌ及びラレレイ社について、実体を御存じない皆様のために、地元サモアから関連情報をお届けいたします。
私たちがもっとも心配するのは、この事業の合法性の問題はともかく、もし将来本件が社会問題にでもなれば、サモアの日本での評価が下がるおそれがあることです。昔も今も、この小さな国は、政治的安定、良好な治安、フレンドリーで親日的な人々・・・・・・どれをとっても、「南太平洋の優等生」です。この評価を、ぜひとも末永く続くことを、願ってやみません。
以上。
(サモア国アピアにて、2003年10月10日脱稿)